はじめに
『Slay the Spire』はローグライクなデッキ構築カードゲームです。
そして僕自身、ローグライクゲームを作っており、この記事ではローグライクゲーム開発者の視点から『Slay the Spire』について考えていきます。
『Slay the Spire』のランダム性
同じゲームを長いことやっていると「特に心の動かない流れ作業のようなプレイ」が発生して、「僕何やってるんだろう…?」となりがちです。
しかし、このゲームには流れ作業が存在しません。
ランダムな要素がとても多く、常に考えて選択し続ける必要があるからです。
そして、そのランダム性で特に重要な要素として挙げられるのが、以下の4要素です。
- デッキの構築
- ステージの構成
- イベント
- 最初の選択肢
デッキの構築
敵を倒した後や、ゲーム内の特定のイベントなどで、カードを入手するチャンスが訪れます。
現在のデッキ構成と照らし合わせて、カードを選んでいきます。(「選ばない」選択肢もあります)
表示されるカードはランダムなので、「テンプレ構成」なんてものはありません。
そして「テンプレ構成」がないからこそ、無限に試行錯誤が楽しめます。
一期一会
時折、「これ最強のデッキじゃん!」となるようなデッキが組みあがることがあります。
しかし、最後のボスを倒したらお別れ。再び同じデッキが組みあがることはないです。
そして過去の最強デッキを忘れて、次なる最強デッキを探求する「一期一会」こそがこのゲームの面白味の一つだと思っています。
ステージの構成
このゲームでは全4層から成るステージを攻略していくのですが、それぞれのステージはランダムに構成されており、どういった経路を辿るかを毎回考えて決める必要があります。
ステージの構成要素の内容は以下のようになっています。
Unknown | 何かしらのイベントが発生する。 |
Merchant | 商人。カードなどを買ったりできる。品揃えはランダム。 |
Treasure | 宝箱。お金、カード、強化アイテムを入手できる。入手できる物はランダム。 |
Rest | HPを回復したり、カードをアップグレードしたりできる。(どちらか片方を選ぶ) |
Enemy | 通常の敵。倒したら報酬がもらえる。出現する敵はランダム。 |
Elite | 中ボス。戦うリスクが高いけど、倒したときの報酬が良い。出現する敵はランダム。 |
「どこで商人に会うべきか」「中ボスと戦うべきか」など、様々な要素のことを考えながら経路を決定します。
ステージを構成する要素はとにかくランダムで、その中でも特筆すべきは「?」マス(Unknown)です。
イベント
「?」マスに止まると、高い確率でイベントが発生します。(たまに敵に遭遇したり、商人に会ったりする)
そして、このイベントこそがゲームにランダム性を与えるのに最も貢献しています。
Wikiを見た限りだと現在52種類ものイベントが存在しますが、基本的に「プレイヤーが一方的に損をする」ようなものが無いです。
- 「カードをアップグレードする」など単純に嬉しいイベント
- 「リスクとリターンを取る」か「リスクはないけど、リターンがないor微小」を選択するイベント
ポジティブで何が起こるかわからない「?」マスはワクワクします。
そしてプレイヤーは「?」マスに積極的に止まるようになり、結果的にプレイヤーはランダム性の強い体験を繰り返し、『Slay the Spire』にハマっていきます。
最初の選択肢
『Slay the Spire』では毎プレイの最初、クジラ(のようなもの)に選択を迫られます。
いくつか選択肢の例を挙げると、
- 最大HPを増やす
- スターターデッキのカードを1枚「取り除く」「他のカードに変換する」「アップグレードする」
- ランダムにレアカードを入手する
- Curse(呪い)カードを入手する代わりに、「入手するレアカードを選択する」「Relic(プレイヤーを強化するアイテム)を入手する」
この最初の選択肢ですが、ゲーム序盤のモチベーションを維持するのに極めて大事な作用をもたらしています。
このゲームは最初のデッキが固定されており、最序盤が同じようなプレイになってしまいます。そこで最初に「ランダムな選択肢」を持ってくることで、プレイの高揚感を高めています。
とある選択肢のパターンに対する疑問
一つ疑問に思ったのが、最初の選択肢に「面白みのない選択肢のパターン」が存在することです。
- 最初の3回の戦闘での敵のHPが1になる
- 最大HPが7アップする
と、「デッキに変更を加える選択肢」などに比べて随分と味気ないです。どちらを選んでも地味なので、このパターンが来たときはモチベーションが落ちます。(体感30%~50%ぐらいでこのパターンが来ます)
これだけは「開発者はなぜこのパターンを作ったのだろう?」と疑問に思っています。
コントラストを作るため?
ひとつ挙げるとすると、「コントラストを作るため」という推測があります。
「コントラスト」とはメリハリです。面白味のないパターンが存在するからこそ、面白味のある選択肢に対する期待感が高まり、「ついプレイボタンを押してしまうのではないか」と考えられます。(参考:ゲームを面白くする「コントラスト」【ゲームデザイン】)
とにかく選択を迫られる
重要な4つのランダム性については以上です。
このゲームでは毎プレイ、「どのカードを選ぶか」「どの経路を辿るか」「どの選択をするか」など、よく考えて選択する必要があります。
「このゲームで選択をしていない場面はない」と言っても過言ではない位に、とにかく選択を迫られます。
まとめると、
「考えて選択するという過程が面白く、それを常に新鮮な状態で提供するための仕組みが、各所に散りばめられたランダム性」なのかな、と思います。
おわりに
もし興味が沸いたのなら、プレイしてみましょう。
資料画像を用意するためにプレイしていたら夢中になってしまい、この記事を書き終わるのに3日掛かりました。